男子がすなるという、あれ。
徳間書店 神楽坂淳著
「大正野球娘。」
【簡単なあらすじ】
時は、大正十四年。
日本の欧米化が十分でないこの時代、洋食屋なんてものがまだ物珍しい時代。
洋食屋「すず川」のおてんば娘、鈴川小梅は、東邦星華高等女学院に通う十四歳の女の子。
毎朝の日課はわっせわっせとノコを引き、牛骨を切ること。
親友の「お嬢」こと小笠原晶子にある日、小梅は頼みごとをされてしまう。
お嬢「一緒に野球をしていただきたいの」
小梅「野球? 男の子がやってる?」
お嬢「そう。男子がすなるという、あれ」
親友からの頼みと持ち前の好奇心から野球をすることになった小梅。
でも、道具は何を使うの? ルールはどういうもの? 何人でするものなの?
文字通り野球の'や'の字も知らない小梅たち・・・。
果たして、小梅は野球は出来るのか!?
そして、なぜ、お嬢は野球をしようと思ったのか?
大正浪漫の香る、可憐な乙女たちの野球奮闘活劇のはじまり、はじまり~。
【読書感想】
本書は文字通り、そもそも野球というスポーツがまだまだ一般的ではない、大正時代のおはなしです。
そして、なおさら女性の社会進出など、まだまだで男尊女卑的な風潮も色濃く残る。
そんな時代だからこそ、女学生たちが一丸となって、野球というもので男性に勝負を挑みます。
この時代、まだ欧米化も十分ではなく、主人公たちの通う女学院も和装半分セーラー服半分といった感じです。
時代が大きく変わる途中で、まさに混沌とした状況です。
それでも彼女たちは明るく前向きに、しかし乙女らしさは決して失わない奮闘をします。
彼女たちの気概といった凛とした姿勢は現代の我々に多くの語りかけるものがあります。
また、本書の特筆すべきことに時代考証の素晴らしさが挙げられます。
本書の最後には参考文献として11冊の書籍が挙げられています。
きっちりと舞台となる時代のことを研究し本書を書かれている著者には感服します。
なんとなくの想像ではなく、きっちりと時代考証を行い、書かれているので非常にリアリティがあります。
本書に書かれている大正時代ならではの事項を幾つか抜粋してみます。
- デートのことはランデブーと呼び、女子が男子を直接誘うのははしたないこととされている。
- 牛肉より鶏肉が高く、オムライスなどの洋食は一般的な料理ではない。
- 体操服というものはなく、彼女たちは制服で運動をする。
【良い点】
- 現代人の失った気概がある
- 時代考証の綿密さ
- 自分らしさを失わない女学生ならではの戦いをしている