2010年9月25日土曜日

屍鬼(三)



明かされる謎 止めることはできない

新潮文庫  小野不由美著

「屍鬼(三)」


【簡単なあらすじ】

(説明上二巻の最後も含みます)

夏野との何気ない会話により敏夫は外場村での死が伝染病なんかではないことを確信する。
これは起き上がりによる犯行なのだ。貧血、縁者から被害者が増えていくこと、日の当たる昼間に出てこない兼正の住人、すべての符号がつながる。
そして、すべての元凶は兼正だったのだ。しかし、このことを村人に説明したところで信じてもらえないことは明らかだった。元凶がわかったところで手の打ちようがないというのが本当のところだった。

また、この事態にいち早く気づいた夏野たちは最初の犠牲者清水恵の墓を暴くことを決める。もし恵が起き上がりになったのならば墓の中に恵はいないはず。
そして、暴いた墓の中には恵はいなかった。疑惑は確信へと変わる。やはり、この一連のことで死んだ者は起き上がりとなり、残った生きている者を襲っているのだ。
その時、墓を暴き、真実を知った夏野たちに血色を失った白い手が襲いかかる。

【読書感想】
この巻では、物語のキーパーソンたちが村人の死の原因に気づきます。
特に、敏夫の真実に気づくシーンは非常に面白いです。
貧血を諸症状とする医療的証拠を突き詰めると原因はわからない。しかし、起き上がりという半ば迷信じみた者の存在を認めるとすべて理由がついてしまう。そしてこの巻から敏夫と静信がぶつかり始めます。これは物語に動きをつけているとも取れますが。別の見方をすればことの事態に最も近かった二人が最も精神をつぶし、追い詰められているとも読めるわけです。
原因はわかったしかし、生き残った者たちの対抗手段はほとんどない。
それでも起き上がりとなった黒い闇は外場村を否応なく追い詰めていく。
この緊張感や追い詰められていく感じはすごく伝わってきます。

また、起き上がりとなった者たちの心情も深く描かれます。なぜ起き上がりたちは生きている者たちを襲うのか。
日の下で生きていた者たちが突然闇の下でしか生きられなくなる。望んでもいないのに突然神から見放された人々の苦悩とは。

ある輪の中にいた存在はその輪を抜けたいと希求する。しかし無理やり輪から外された者はその輪への参加を再び願う。
その葛藤の様子が随所に感じられます。


【良い点】
・死の原因が明らかに
・手に汗握る展開
・村人と起き上がりたちの葛藤


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